大工調べ

2022/04/17 sun

夕刻、落語会。『大工調べ』をネタ下ろしする。この『大工調べ』、難易度がたいへんに高い噺である。棟梁が大家さんに1000文字分の啖呵を切る。ここを淀みなく早口で喋らなければいけない。また、それだけではなく、棟梁の状況説明的なセリフ、大家がだんだん不機嫌になっていく描写、与太郎が大家に間違えながら毒づくところなど大変に難しい。それでもってあたくし、今月に入ってからいろんなことが重なり、ろくに稽古ができていない。普通ならあきらめて演り慣れた噺に変更するところだ。道灌とか。んでも、やったろうと。
というのは、今しかできないちょっとした工夫を思いついたからだ。
何かというと、この噺は冒頭、こういうやりとりがある。

「おう、与太、いるか」
「ああ、棟梁」
「棟梁じゃあねえ。ぼんやりしやがって。どうしたい?おふくろはいねえようだなあ。墓参りか。ああ結構だ。年寄りは墓参りがいちばんだからなあ。またおめえはえれえや。よくお袋の面倒見るからなあ。まあ、しばらくお前を遊ばせちまってすまなかったが、今度あまあ、いい仕事ができたぜ。番町のほうのやしきでなあ…」

ここを一工夫するために、演った。それでは、実際の私の口演をマクラからお楽しみください。

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ええ、よろしくお願い申し上げます。事例亭文太です。
ええ、今日は、私の兄弟子です。事例亭独楽太さんの月例会。記念すべき第1回目に、呼んでいただきましてありがとうございます。一生懸命やります。

では、マクラを喋ります。
ちょうど2週間前ですが、あたくしのお袋がえー、85歳。んで、埼玉は坂戸ってとこに一人暮らし。
その婆さんが家の中で転んで、大腿骨を複雑に骨折したんですね。
んでまあ、最初、埼玉県の狭山ってとこの救急病院に運ばれまして、
んでそこの先生が、これ手術しない方がいい、ってんですよ。
ああ、そうですか。わかりました。ってんでね。
んで、その日のうちに今度は、川越の病院に転院して。
川越。いいとこですよ。有名なのは古い町並みと、芋です。いも。芋のお菓子なんかいっぱい売ってるとこ。
その川越の病院、2~3日後に呼ばれて行ったら、その主治医が、
「あんた、手術しないつもりらしいけど、どういう了見だ!」ってね。怒られた怒られた。
いや、なんか最初の先生がそう言うから。つったんですけど。
なんだそりゃあ、普通手術するんだよ!手術しなかったらずーっと痛いままなんだ、って。
えええ?てなもんで。いやあ、もう、手術、してくださいしてください。すみません。って謝って。
んで、先週手術して。ボルト入れたんですね。ああよかったな。てなもんなんですけど。

これ危なかったんですよ。もし最初の病院でベッドが空いてて、そのままそこに入院してたらね、手術しない方針でしょ。そしたら一生歩けない、どころか、痛いままですから。ねえ。ゾッとしましたよ。怖いなあと思いましたよ。ほんとに。だからねえ、セカンドオピニオンは必要だと思いました。

でね、そんなことはどーでもいいんです。
あたし、ちょっとみなさんに言っておきたい

あたし、基本的に、だらだら生きてるんです。
でも、ここ最近はね、そうやって、頻繁に病院行ったり役所行ったり、
すごい活発に動いてるん。一生懸命やってるん。
でもね、これ、誰も褒めてくれないんですな。。。

まあ、そりゃそうですよ。てめえのお袋の面倒、てめえが見てて、他人は誰も得しないですからな。
ええ。褒めたりしませんよ。ええ。わかってるんです。わかってるんですけどね。
なんかこう、むなしいんです。
なんで私こんなに頑張ってんのに誰も褒めないんだ!
やってらんねえよ!っんでね。
私、最近、いつも以上に、酒え飲むようになりました。もう毎日ベロンベロンです。

でね、あたし、思いました。
これからは、人を褒めようと思います。介護してる人とか。うん。偉いですよ!ほんと!
あと、あれですね。子育てしてる人も褒めたい。あれも誰も褒めてくれないですからね。大変なのに。
だから、褒めてほしい人いたら、言ってください。あたし、あとで個人的に褒めますから。ね。
ええ、さあ、そんなことで、落語の方に移りたいと思いますが。

「おう、与太。いるか」
「ああ、棟梁」
「棟梁じゃあねえ。ぼんやりしやがって。どうしたい?おふくろはいねえようだなあ。墓参りか?」
「ええ?いや棟梁。お袋ねえ、墓参りじゃないの。転んで足の骨折って入院してんの」(※1)
「よせ、このやろう、ホントの話をするんじゃないよ。墓参りにしとけ」
「あそう、んじゃあ墓参り」
「墓参りか。ああ結構だ。年寄りは墓参りがいちばんだからなあ。またおめえはえれえや。よくお袋の面倒見るからなあ。」
「え?棟梁。褒めてくれんの? ぐすん。。うれしいなあ。。。」(※2)
「おいおい、何泣いてんだバカ。いいんだよ、そんなことはあ、あのな。まあ、しばらくお前を遊ばせちまってすまなかったが、今度あまあ、いい仕事ができたぜ。番町のほうのやしきでなあ…」

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賢明な方はお分かりかと思いますが、これ、上記(※1)が笑いどころだったんです。
でも笑ってくれたのは見に来てた佐藤幸雄氏だけでしたな。
(※2)に至っては誰も笑わない。しーーーんとしてましたよ。
まあねえ、そうかな、と思います。今になってみると。

んで、いろんなところをつっかえたりして結果、40点の出来。でも悔いはないです。ナイスチャレンジ。俺。